日本とシンガポールのフレッシュペットフードに関するレビューを比較すると、日本のレビューでは「手作りみたいでおいしい」「よく食べてくれて嬉しい」といった声が多く見られるのが特徴です。一方、シンガポールのレビューでは、「毛並みが良くなった」「健康的なうんちが出る」といった、効果に注目したコメントが目立ちます。
同じフレッシュペットフードでも、両国の消費者は異なる視点から評価しており、これは単なる好みの違いではなく、文化的な背景の違いに根ざしているものです。
日本の消費者は「感性」を重視する傾向があるのに対し、シンガポールの消費者は「機能性」に関心を持っています。こうした文化的な違いを正しく理解することで、ブランドはより効果的なマーケティング戦略を立て、各市場の価値観に合った形で製品の魅力を伝えることができるのです。
はじめに
日本とシンガポールの消費者がフレッシュペットフードをどのように評価するかは、文化的な違いが大きな影響を与えています。この記事では、両国の消費者のレビューを比較し、キーワード分析を通じてその違いを明らかにしました。
日本のレビューでは、「手作り」や「おいしい」といった言葉が多く使われており、日本の消費者が感性を重視していることがわかります。一方、シンガポールのレビューでは、食の好き嫌いやペットの健康に関する言葉が多く使われており、シンガポールの消費者は機能性を重視しているという仮説が立てられています。
また、この記事では、両国のブランドがどのようにそれぞれの消費者に価値を伝えているかについても触れています。日本のブランドは、製品を使うことで得られる安心感や快適さを強調し、感性を大切にする日本の消費者に訴えています。
たとえば、地元の食材を使用し、その産地を明記するなどの方法です。一方、シンガポールのブランドは、製品の効果や実用性を強調しています。たとえば、使用されている食材がペットの健康にどんな利益をもたらすかを説明することです。
最後に、この記事ではシンガポールでのフレッシュペットフード需要を生み出す要因も解説しています。
フレッシュペットフードとは?
フレッシュペットフードとは、ドライフードのような既存のペットフードとは異なり、新鮮な食材を使って調理された食事のことです。生の食事も時々このカテゴリーに含まれることがあります。添加物を避け、ペットの栄養ニーズに応えるために肉、野菜、穀物がバランスよく組み合わされているものです。
フレッシュペットフードは通常冷凍され、ペットに与える前に解凍して使います。ドライフードやウェットフードのように、そのままペットのボウルに入れるだけの手軽さはありません。
フレッシュペットフードの大きな魅力のひとつは、人間の食事に似ている点です。実際、「ヒューマングレード」という言葉は、ペット用の食べ物が人間の食べ物と同じ品質と安全性を持っていることを示す重要なマーケティング用語として広まっています。
このような品質志向の高まりとともに、フレッシュペットフードの市場は急成長しています。Business Research Insightsによると、2023年の世界市場規模は7.6億米ドルで、2032年には27.3億米ドルに達し、年平均成長率(CAGR)は15%に達する見込みです。
フレッシュペットフードの成長を支える要因は、複数あります。高級ペット製品は、日本やシンガポールといった先進国で注目を集めている存在です。さらに、近年ペットの飼い主はペットの健康について知識を深め、生活の質を向上させるために積極的に行動しています。
重要なのは、ペットと飼い主の関係も変化しており、ペットを家族の一員として扱う「ペットの人間化」が進んでいることも、その成長を後押ししているということです。
ペットのヒューマニゼーション(人間化)のトレンド
なぜ、飼い主はペットを「子」と呼び、名前に「ちゃん」や「くん」をつけるのでしょうか?シンガポールでも似たような現象が見られ、飼い主は自分たちを「pawrents(パウレンツ)」や「paw parents(パウ・ペアレント)」と呼び、ペットを「furkids(ファーキッズ)」と呼ぶことが多いです。
(「pawrents」は、「parents(親)」と「paw(動物の足)」を組み合わせた造語で、主に**ペット(特に犬や猫)のパパ、ママと言うニュアンスの言葉。「furkids」もまた英語の造語で、「fur(毛)」+「kids(子ども)」を組み合わせ、「ペットの子供」と言うニュアンス)
これらの呼び方は、ペットを単なる愛玩動物としてではなく、家族の一員として見ていることを示しています。飼い主がペットを人間のように扱うことで、ペットの人間化が進んでいることがわかります。
ペットを家族の一員、まるで子どものように考える人が増えてきたことで、ペットに最高のケアをしてあげたいと思う飼い主が増えているとも言えるでしょう。そのため、ドライフードだけでなく、もっと健康に良いとされるフレッシュフードを選ぶ人が増えています。
たとえ値段が高くても、「うちの子のためなら」と、より良いものを選びたいという気持ちがあるのです。
日本とシンガポールにおけるフレッシュペットフードの需要分析
調査対象としたフレッシュペットフードブランド
フレッシュペットフードのブランドが日本とシンガポールのペットオーナーにどのように訴求しているかを理解するために、キーワードの比較と分析を行います。
そのため、まずは両国で展開されているフレッシュペットフードのブランドを調べました。
No. | 日本のブランド | シンガポールのブランド |
---|---|---|
1 | Uniam (2024) | Cats | Bailey’s Bento (2023) | Dogs |
2 | XAXA Premium Pet Food (2022) | Dogs and Cats | Maume (unclear, my guess is 2022) | Cats |
3 | Miao Gourmet (2022) | Cats | Sniibbles (2020) | Dogs and Cats |
4 | Buddy FOOD (2021) | Dogs | The Grateful Pet (2017) | Dogs and Cats |
5 | Whole Fresh UMAMI NATURE (2021) | Dogs | BomBom (2017) | Dogs and Cats |
6 | PETOKO Foods (2020) | Dogs (Cat line still in development) | Pawmeal (2017) | Dogs |
7 | BIO GOURMET (unclear, my guess is 2020) | Dogs | GoodWoof (2016) | Dogs |
8 | WAN-DELI-TOKYO (2020) | Dogs | Furry’s Kitchen (2016) | Dogs and Cats |
9 | CoCo Gourmet (2019) | Dogs | PetCubes (2013) | Dogs and Cats |
10 | 犬猫生活 (2018) | Dogs and Cats | – |
11 | HITOWAN (2018) | Dogs and Cats, but fresh food is only for Dogs | – |
調査方法
調査方法として、顧客レビューを収集し、頻出するワードから消費者の需要を分析することとします。
日本とシンガポールのフレッシュペットフードブランドのうち、公式サイトに顧客レビューが掲載されていたものは、それぞれ5社ずつでした。そこから、両国で同数となる40件ずつのレビューを収集し、内容を分析しました[*1]。
調査の基準を統一するため、犬の飼い主によるレビューに焦点を絞っています。これは、調査対象となったブランドやレビューの多くが、フレッシュドッグフードに関するものだったためです。
これから紹介するグラフは、日本とシンガポール、両国のレビューで多く使われたキーワードのトップ10を示しています。
キーワードの傾向を見ると、犬の飼い主がフレッシュフードを好む理由は1つに絞れず、さまざまな要素が影響していることがわかります。特にこれといった理由が突出しているわけではありません。どのような理由があるのか、日本とシンガポールに分けて、それぞれ見ていきましょう。
日本の消費者に関するキーワード分析

日本のレビューでは、「手作り」という言葉が特に多く見られました。この言葉には、丁寧に作られた安心感や、愛情が込められているというイメージがあります。「本当は自分で手作りしてあげたいけれど、時間や手間が足りない」という飼い主にとって、市販のフレッシュフードがその代わりとなる存在として支持されていました。さらに、「手作り=おいしい」という認識もあり、犬の食欲を引き出してくれる点でも評価されているようです。
もっと美味しかった〜❣️って顔して食べてもらいたくて、自分でごはんを手作りしてみようかなと考えたりもしたのだけど、、栄養バランス考えて作るのは自信ないなぁと悩んでいた時に出会ったココグルメさんのごはん。
成犬のトイプードルの飼い主による、CoCo Gourmetに関するレビューの抜粋
「美味しい」という言葉も多くのレビューで目立ちました。飼い主にとって、フードが「美味しい」かどうかは、それが良い製品か、また買う価値があるかを判断する大きな基準です。
自分では味見ができないため、多くの人は愛犬の「食いつき」の良さから美味しさを評価していました。特に、これまでごはんを食べてくれなかった犬や、体調の問題で食べることが難しかった犬を飼っている人にとって、「美味しい」と感じてくれるフードはとても大切な存在になっているようです。
美味しいようです
はぴママさんによる、PETOKOに関するレビュー
食べむらがあるので心配でしたが、食べてくれました。
レビューには、愛犬が「おいしく食べてくれた」ことに、飼い主が安心している様子がよく表れていました。
「冷凍」というキーワードは、食材の鮮度が保たれていることを意味する場合と、飼い主にとっての手軽さを意味している場合があります。食事を一から用意する必要がなく、解凍して温めるだけで与えられる便利さが評価されています。
また、「栄養が豊富で質が高い」ことも、フレッシュフードが選ばれている理由のひとつです。このことは、「栄養」に言及したレビューが9件、「完食」に言及したレビューが6件あったことからもわかります。さらに、「無添加」「ヒューマングレード」といったキーワードも多く見られ、プレミアムなイメージと結びついていました。
シンガポールの消費者に関するキーワード分析

シンガポールのレビューで特に多かったのは、「fussy(気難しい)」や「picky(好き嫌いが多い)」という言葉でした。これらは、愛犬が他のフードを食べず、仕方なくフレッシュフードを試した、という飼い主の経験を表しています。
レビューに登場する飼い主たちは主に2つのタイプに分けられます。ひとつは、食に対してこだわりが強く、なかなか食べてくれない犬を飼っている人たち。もうひとつは、健康上の理由からフード選びに慎重になっている飼い主たちです。
同じようなことは日本でも見られましたが、日本のレビューではそれをはっきりと「好き嫌いが激しい」とは書かず、「他のフードを食べなかった」と表現するなど、より控えめで間接的な表現が使用される傾向にありました。
日本の飼い主は「おいしいかどうか」をフード選びの基準にしていましたが、シンガポールの飼い主は、愛犬の体に現れる変化を通して、フードの良し悪しを判断しているようです。そのため、「毛並み」「うんち」「体重」といった、身体の状態に関するキーワードがよく登場しています[*2]。
特に、健康上の問題を抱える犬の飼い主にとっては、フードを変えたことでどんな変化が見られたかが非常に重要でした。健康状態が改善されたかどうかが、フレッシュフードの効果を測る指標になっていたのです。
Highly recommend the fish series for dogs with skin problems! My boy saw many vets and tried my different food, but only this works for him! He only had them for a week, and his skin improved so much. Thanks, Furry’s Kitchen for the awesome food!
Sharleneさんによる、Furry’s Kitchenに関するレビューの抜粋
「皮膚の問題がある犬には、フィッシュシリーズをぜひお勧めします!うちの子は何人もの獣医に見てもらい、いろいろなフードを試しましたが、これが一番効果がありました!わずか1週間で、皮膚の状態がとても良くなりました。素晴らしいフードを提供してくれたFurry’s Kitchenに感謝です!」
他にも頻繁に登場したキーワードとして、「栄養」「アレルギー」「新鮮」があります。「栄養」と「新鮮」は、フレッシュフードが健康的だと飼い主が考えていることを示しており、「アレルギー」は、フードが犬にとって安全で、アレルギー反応を引き起こさないことに関連しています。
日本とシンガポールの飼い主による評価ポイントの違い
これらのキーワード分析を通じて、日本とシンガポールの犬の飼い主がフレッシュフードの栄養的・健康的なメリットをどう評価しているのかがわかりました。そして、評価方法に違いがあることもわかりました。
日本の飼い主は、犬がフードをどれだけ食べるかでフードが「美味しいかどうか」を判断しています。一方で、シンガポールの飼い主は、犬の毛並みや便、体重など身体的な変化を見て、そのフードが犬の健康に良い影響を与えたかどうかを評価しているようです。
日本の飼い主のアプローチは「感性重視」と言えます。これは、飼い主自身の感情や反応がフードの評価において重要だということです。たとえば、愛犬がフードをよく食べてくれて安心したという飼い主の反応がそれを示しています。
それに対して、シンガポールの飼い主のアプローチは「機能性重視」と言えるでしょう。飼い主は、フードが犬の健康にどんな変化をもたらしたかを重視するだけでなく、フレッシュフードが犬の好き嫌いへの解決策として効果的だと考える人もいました。
SNS分析で見る日本・シンガポールのマーケティングの違い
日本のブランドは、消費者の感情に訴えるため、安心感を与えるようなマーケティングを行っています。一方で、シンガポールのブランドは、製品の機能性を強調し、その有用性を消費者に伝えようとしているのです。
ここからは、こうしたマーケティングの違いがどのように表れているのかを、原材料や調理方法に関するInstagramの投稿やリールを比較しながら分析していきます。さらに、ブランドが業界の基準をどのように取り入れ、専門家の関与を活用しているのかを見ながら、両国の消費者の異なる期待にどう応えているのかを考察します。
SNSと公式サイトの両方を参照することで、ブランドがオンラインでどんなアプローチをしているのかがよく見えてくるでしょう。
「感性」重視と「機能性」重視のマーケティングの違い
ここでは、フレッシュペットフードに使われている原材料についての投稿を比較していきます。
最初に紹介するのは日本のブランド「Buddy Food」です。このブランドは、2025年3月25日に公式Instagramで「お米」についての投稿を行いました。
この投稿では、お米の栄養的な特徴について説明すると同時に、原材料の産地が鹿児島であることも紹介しています。
産地の情報が示されているのは、日本では「地元の食材=新鮮でおいしい」というイメージが強く、それが消費者に製品の品質への信頼感を与えるためです。なお、こうした原材料の産地を明らかにする工夫はBuddy Foodだけでなく、日本の多くのペットフードブランドが自社のウェブサイトなどでも行っていました[*3]。
栄養面と産地の情報をあわせて伝えることで、消費者はブランドの商品に親しみを持ち、安心して購入できるようになります。この「安心感」は、感性に訴えるマーケティングの大切なポイントです。
次に、シンガポールのブランドである「PetCubes」が2025年3月20日に公式Instagramページで投稿したウサギ肉に関する投稿について紹介します。
2枚目 | 3枚目 |
---|---|
消化にやさしい 骨と関節の健康をサポートする 健康的な代謝を促進する | ローテーション給餌にぴったり 皮膚と毛並みの健康をサポートする 骨や歯を丈夫に保つサポートをする |
この投稿は、ウサギ肉が犬と猫にそれぞれ異なる健康効果をもたらすことに注目しています。PetCubesは、犬と猫両方のためのフレッシュフードを提供しているため、両方の動物に合わせた健康効果を紹介しているのです。
具体的な健康効果を示すことで、消費者はその製品の価値を理解しやすくなり、購入の決断がしやすくなります。これは、機能性重視のアプローチです。
調理方法の宣伝に見る感性重視と機能性重視のマーケティング手法
次に見ていくのは、2社のフレッシュペットフードの調理方法を比較したInstagramのリールです。
2025年3月22日に日本の企業「HITOWAN」が投稿したリールでは、代官山本店でのフレッシュペットフード作りの過程が紹介されています。
リールはこのように始まります:
HITOWANのごはんは代官山本店で/毎日手作りしているよ!
HITOWAN(@hitowan_dog)
このテキストは、大きな金属の鍋に食材が注がれ、コンロで調理されるシーンに重ねて表示されています。リールの残りの部分では、食材が手作業で準備されており、家庭用のキッチンに似た環境ですが、より大規模な規模で行われています。
リールの最後に、次のようなテキストが表示されます:
キッチンからいい香りが漂ってきて/よだれが垂れちゃうから気を付けてね!
HITOWAN(@hitowan_dog)
リールの冒頭では、消費者に手作りの品質を見せていましたが、最後はキッチンの雰囲気を再現しており、これが消費者の感情に訴えかけます。
全体として、このリールは消費者に製品が本当に手作りで、丁寧に作られていることを伝えることで、安心感を与えているのです。
一方、シンガポールの企業「The Grateful Pet」が2025年3月21日に投稿した別のリールは、「私たちが大変な仕事を引き受けます」と始まります。これは、消費者がブランドにペットの食事を任せることで、オーナーが心配しなくて済むようにすることを意味しています。
その後、リールはブランドの製品が信頼できる理由を紹介。「微生物の活動を防ぐために急速冷凍している」といった点が挙げられます。
リールの最後には「The Grateful Petの生食は完全にバランスが取れており、すぐに与える準備が整っています/今日試してみてください!」というメッセージが表示され、その後、犬のボウルに食べ物を入れる手の映像が映ります。
このように、このリールは製品の価値を明確に説明するという機能面でのアプローチをし、消費者に購入を促しています。
日本とシンガポールにおけるペットフードの業界標準と専門家関与の重要性比較
感性と機能性を超えて、両国の消費者には安全性に関しても異なる期待があることがわかりました。
両国のブランドは、アメリカ飼料検査官協会(AAFCO)の国際的に認められた基準[*4]を元に製品を設計し、専門家を雇ってレシピを作成しています。しかし、日本のブランドはこれらの要素をシンガポールのブランドよりも強調する傾向があるようです。これは、特に公式ウェブサイトに顕著に表れています。
先にピックアップした日本のブランドの11社中9社、つまり半数以上がAAFCOの基準に従っており、協力した専門家を紹介しています。
一方、シンガポールのブランドは9社中4社と半数未満のシンガポールブランドしかAAFCOの基準を取り入れていません。9社のうち6社は製品作成にあたって専門家と相談したことに触れていますが、専門家をウェブサイトに登場させているのは、そのうちの3社だけです。
このことから、特に日本のブランドは、自社製品が安全であることを証明するために、AAFCOの基準や専門家の存在を強調していることがわかります。その意図するところは、信頼性を高め、消費者にさらなる安心感を与えることです。
では、シンガポールの消費者は安全性に関してあまり気にしないのでしょうか?実情としては、両国はともに厳格な食品規制を課しています。
日本の消費者はブランドに対して高い責任を求める傾向があり、そのため日本のブランドはより多くの方法で製品の安全性を保証しようとします。一方、シンガポールでは消費者がすでに市場に出回っている製品は政府の規制をクリアしていると信頼するため、ブランドが追加的な安全証明を提供していなくても問題ないと感じている可能性があります。
シンガポールにおけるフレッシュペットフードの需要を支える地域要因
ペットの人間化や健康志向の高まりによる需要増加
先述したように、シンガポールのペットオーナーはフレッシュフードを与えた後、ペットの体調に変化を感じたと報告しています。このような実利的な思考は、シンガポールが建国以来、効率や現実主義を重視してきた国家運営の影響を受けていると言えるかもしれません。
とはいえ、実用性は確かに消費者の思考過程に影響を与えているものの、購入を決定するおもな動機はそれだけではないでしょう。実際の動機は、ペットへの深い愛情と関心であり、そうでなければ、消費者がフレッシュペットフードに高い料金を払う理由はありません。
記事の冒頭では、ペットの人間化のトレンドに触れました。これは、一般的なペットオーナーにも当てはまりますが、特に「子ども」の代わりにペットを飼うことを選んだオーナーに強く見られる傾向です。
こうした選択は、特に夫婦の間でより一般的になっています[*5]。もしオーナーがペットを子どものように扱い、ペットが実際に「子ども」の役割を果たしているのであれば、その結果としてペットへの支出が増加するのは理にかなっています。なぜなら、それはオーナーとペットとの絆に対する投資と見なされるからです。
これは、ミレニアル世代や若年層が自分の充実感を得られる個人的な興味や経験にお金を使うという既存の調査結果とも一致しています。
もうひとつ考慮すべき点は、食事が健康に深く関わっているということです。自分自身の食生活に気を使うオーナーは、ペットの食事にも気を配りたくなる傾向があるかもしれません。
シンガポールでの主要な健康問題には、高コレステロールや高血圧があり、これらは心血管疾患のリスク要因です。高血糖の発症率は2020年の39.1%から2022年には31.9%に減少しました。(National Population Health Survey)
これは、より多くの人々が健康を改善しようとしていることを示しています。しかし、砂糖や塩の消費量は依然として高いため、最近では健康促進局が摂取量を減らすようにと呼びかけるキャンペーンを行っています[*6]。
このような健康上の懸念は、食事を調整することで管理できます。この背景のなかで、ペットのオーナーたちは自分たちの食事だけでなく、ペットの食事も見直し、より健康で長生きできることを願っているのです。
シンガポールで高まるフレッシュキャットフード需要
この記事では、フレッシュなドッグフードのレビューに焦点を当て、犬の飼い主に重点を置いて分析していますが、フレッシュなキャットフードに対する需要がないわけではありません。
調査によると、日本では犬よりも猫を飼っている人が多いことがわかっています[*7]。これは、猫が場所をとらず、日本の都市部の狭い住環境に適していることと関係しています。
一方、シンガポールではここ数年、猫の飼育数が着実に増加しています[*8]。2024年には、シンガポール国内の居住者の約80%を占める政府公営住宅(HDB)居住者の猫飼育を合法化する法律が新たに制定されたおかげで、この数はさらに増加すると考えられます。
このような需要の高まりは、ここ数年のUniam(日本)やMaume(シンガポール)のような、猫に特化したフレッシュフードブランドが登場した理由でもあります。
日本とシンガポールのペットフード事情とマーケティングまとめ
【要点】
・ペットを人間のように扱う傾向が強まったことで、飼い主とペットの関係が変わり、新鮮なペットフードへのニーズも高まっている。
・日本とシンガポールの消費者は、安全性に対してブランドに求めることが異なっており、その違いが各国のブランドの対応方法や、信頼性のアピールの仕方に影響を与えている。
・少数のレビューを見た限りでは、日本の飼い主はペットがフードを気に入ったかを感覚的・主観的な判断で評価する一方で、シンガポールの飼い主は数値などの客観的な基準で評価している傾向にある。
日本とシンガポールの消費者がフレッシュペットフードに対して抱く期待を分析した結果、日本人は感性重視のアプローチを取り、シンガポール人は機能性重視のアプローチを取ることがわかりました。したがって、ブランドは異なる市場での製品への期待を理解し、各国の消費者に合わせたマーケティングを行うことが重要です。
感性と機能性の比較も大事ですが、安全性への期待やペットの人間化のトレンドの影響など、他の要素もターゲットの消費者を総合的に理解するためには不可欠です。
当サイト(YUKARINO)は、シンプルな手法で海外現地ローカルの生活や、海外現地のリアルな現状についてレポートするリサーチサービスです。サービスに関心のあるお客様は、Contact Us (お問合せ)からお気軽にご連絡ください。
文中の補足情報・データ(クリックで開く)
[*1]
日本のブランドでウェブサイトにレビューがあるのは、Buddy FOOD、PETOKO FOODS、CoCo Gourmet、犬猫生活、HITOWAN。シンガポールのブランドでウェブサイトにレビューがあるのは、Sniibbles、The Grateful Pet、BomBom、Pawmeal、Furry’s Kitchen。
11の日本のブランドのうち、5つのブランドがウェブサイトに顧客レビューを掲載していた。それぞれのウェブサイトから8件のレビューを取り、合計40件のレビューを収集。シンガポールのブランドについては、9つのウェブサイトのうち5つが顧客レビューを掲載していたが、レビューが3件と少ないサイトもあれば、19件以上あるサイトもあった。40のレビューを集計するために、ブランドのウェブサイトのうち4つからすべてのレビュー(合計26件)を取り、19以上のレビューがあったウェブサイトから14のレビューを取り出した。各ブランドから集めたレビューの数は異なるが、フレッシュなペットフードについてのフィードバックを研究しているのであって、個々のブランドのフードのフィードバックを比較しているわけではないので、これは許容範囲だと判断した。
[*2]
ペットの食べ物の好みに関して飼い主の態度の違いは、ペットの人間化(ペットヒューマン化)トレンドに関連していると考えられる。飼い主はペットを自分の子どものように大切にしており、ペットが食べないことに悩む。そのため、飼い主の反応は、両国の育児スタイルに影響されている可能性がある。
[*3]
これはシンガポールとの著しい違いである。シンガポールでは、国産食品に対する同様の認識はごくわずかである。シンガポールでは、食料の90%が輸入品であるのに対し、国内生産が食料全体に占める割合はわずか10%程度に過ぎないからだ。対照的に、日本は食料の約40%を生産し、残りの60%を輸入している。加えて、シンガポールは国土が非常に狭く、東京都の3分の1ほどの面積しかない(首都圏を除く)。そのため、仮に国内生産が増えたとしても、食材がどの地域から来ているかを特定することには意味がない。
[*4]
AAFCOは「ペットフードと医薬品の販売、流通、栄養要件を規制している」(PetMD)。特定のフードがこの基準を満たすということは、そのフードが動物の特定のライフステージに対して必要な栄養が完全かつバランス良く含まれていることを意味する(PetMD)。この基準はアメリカで制定されたものだが、世界的な意義を持ち、日本やシンガポールでも認められ、使用されている。
[*5]
Pet Attachment and Its Impact on Family Planning in Singapore(ペットへの愛着とシンガポールにおける家族計画への影響)(2024) by Justin Ong, as part of the Institute of Policy Studies (IPS) News Fellowship
[*6]
最近の例を2つ挙げると、2022年12月から、飲料に含まれる糖分と飽和脂肪の量を消費者に知らせるため、Nutri-Grade(ニュートリグレード)表示が義務化された。一方、2023年12月には「Less Salt, More Taste(塩分控えめ、おいしさアップ)」キャンペーンが導入された。
[*7]
日本人のペット飼育:https://petfood.or.jp/pdf/data/2024/3.pdf( 一般社団法人ペットフード協会)
[*8]
シンガポールのペット飼育:https://www.businesstimes.com.sg/singapore/smes/purr-suasive-growth-rising-pet-numbers-doting-owners-fuel-demand-fresh-pet-food(The Business Times)