抹茶の人気はかつてないほど高まっています。しかし、消費者は抹茶ドリンクにどのようなテイストを期待しているのでしょうか。抹茶はどの程度「苦い」あるいは「甘い」のが好まれるのでしょうか。本記事では、タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポールにおけるGoogle Mapsレビューを簡易的に調査し、消費者の抹茶商品に対する反応傾向を明らかにしています。
調査概要
調査の目的と方法
東南アジアにおけるGoogle Mapsの口コミを収集し、抹茶製品に対する味の好み、特に苦味、甘味、ミルク感について分析しました。
- 135件のGoogle Mapsレビュー
- 東南アジア4カ国(タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポール)
- 各国を代表する3店舗を選出(詳細は「どのように店舗を選んだのか?」を参照)
- 各店舗から15件のレビューを収集
各レビューは、苦味、甘味、ミルク/クリーミーさに関する言及についてタグ付けされ、それぞれの言及は肯定的・中立的・否定的な感情として評価されました。
本調査でわかること/わからないこと
本調査はGoogle Mapsの口コミをもとにした簡易的なものであり、特定の店舗における抹茶製品の風味(甘さ、苦さ、ミルク感など)に関する肯定的・否定的な傾向を示したものです。実際の消費者調査ではありません。
そのため、各国の平均的な嗜好、年齢層や性別との関係、特定のメニューの定量的比較、因果関係の証明などについては扱っていません。本レポートは、あくまでシンプルなレビューの集積が、味に関する消費者動向のヒントを提供できることを示すものです。
調査結果
国別レビュー分析:苦味・甘味・ミルク感に対する消費者の評価(マトリクス)
「苦味」「甘味」「ミルク感・クリーミー感」に対してのコメントは、以下のように評価・分類できました。
(例:◎=好意的言及、△=中立、×=否定的)
国名 | 苦味の評価 | 甘味の評価 | ミルク感の評価 |
タイ | ◯ | △ | ◯ |
シンガポール | ◯ | ◯ | ◯ |
インドネシア | ◎ | △ | ◯ |
ベトナム | × | ◯ | × |
タイ
・苦味は抹茶の全体的な風味を良くする要素として評価された。
・甘すぎないバランスの取れた味が好まれた。
・クリーミーさやミルクと抹茶のバランスも賞賛された。
→レビュアーはバランスの取れた抹茶商品を好む傾向があった。苦味・甘味・クリーミーさはいずれも全体的な味わいに寄与し、特定の要素が突出することはなかった。
シンガポール
・苦味と甘味のバランスが肯定的に受け止められた。
・甘すぎない点が評価された。
・抹茶を引き立てる程度のミルク感が好意的に受け止められた。
→苦味が最も重要とされ、甘味やミルク感は苦味を補完する役割を担うと考えられていた。それらが苦味を打ち消す場合、否定的評価につながった。
インドネシア
・わずかな苦い後味が好まれた。
・甘味は他の要素とのバランスが重要とされた。
・クリーミーさも評価された。
→すべての要素が評価に影響。少しの苦味と甘味のバランス、さらにクリーミーさが加わることで好印象となった。
ベトナム
苦味は否定的に受け止められた。
甘さは多くのレビュアーに「ちょうど良い」と評価された。
ミルク感のバランスについては否定的な意見が目立った。
→苦味は好まれず、甘味とミルク感の適度な調和に重点が置かれた。
本調査は限定的ではあるが、レビューからブランドごとの消費者反応を把握する一助となる。実際には、自社ブランドのレビュー収集や、他ブランドのレビューを分析することでポジショニング把握に役立てることが可能である。
今後の活用に向けた考え方
初期仮説から本格調査へ ― 次のステップ
今回の簡易分析から得られた初期的な仮説は、そのまま市場戦略に直結させるには不十分です。しかし「次にどんな調査を設計すればよいか」を考えるための出発点としては十分に活用できます。
例えば、シンガポールで「苦味が評価されやすい」という傾向が見えた場合、本当にそうなのかを確かめるには以下のような調査が有効です。
定量調査(アンケート): 年齢層や性別などの属性情報と紐づけて、「若年層は甘味を好むのか」「高所得層は苦味をより評価するのか」といった違いを数値で把握する。
商品テスト(試飲・試食): 甘味や苦味の強さを調整した複数の抹茶ラテを用意し、消費者に実際に飲んでもらう。どのバランスが一番好まれるかを確認することで、商品改良に直結する具体的な指標を得られる。
一方、ベトナムで「苦味が好まれない」のはなぜかを掘り下げるには、
定性調査(インタビューやエスノグラフィー):を通じて「子どもの頃から甘い緑茶飲料に慣れている」「苦味は健康飲料や薬のイメージと重なる」といった文化的背景が見えてくれば、マーケティングメッセージの方向性を定める手がかりになるでしょう。
このように、レビュー分析で得られた「仮説」を次のステップで丁寧に検証していくことで、より確かな市場理解につながります。そしてそれは、各国での消費者の味覚傾向に即した商品改良や新商品開発、さらにはマーケティング戦略の設計に結びつけていくことができます。
本調査について
調査対象店舗の選び方(Tier分類と選定基準)
各国の抹茶関連店舗には多様性があるため、選定を標準化する目的でティア(Tier)制を設けました。
- Tier 1:抹茶専門カフェ
メニューの大部分が抹茶商品で構成され、複数種類の抹茶を区別して提供。ブランドとして抹茶と強く結びついている。 - Tier 2:高級カフェやティーハウス
抹茶に特化してはいないが、複数の抹茶メニューを提供している。 - Tier 3:一般的なカフェ
幅広いメニューを扱いながら、抹茶ドリンクやデザートを継続的に提供している。
各国からTier 1〜3の店舗を1店ずつ選定し、以下の条件を満たすものを対象としました。
- Google Mapsで100件以上のレビューがあること
- 都市部で少なくとも2年以上営業していること(ジャカルタ、バンコク、ホーチミン、シンガポール)
選定店舗一覧
Tier | 国 | 店舗名(開業年)- 支店 | 備考 |
---|---|---|---|
Tier 1 | タイ | MTCH (2022) – Ari (537件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 1 | シンガポール | HVALA (2017) – 111 Somerset (714件レビュー) | |
Tier 1 | インドネシア | Matcha Bae (2022) – Kelapa Gading (471件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 1 | ベトナム | Matte Matcha & Teabar (2024) – 25-27 Đặng Đức Thuật, Q7 (346件レビュー) | 旗艦店 ※特例選定 |
Tier 2 | タイ | Peace Oriental Teahouse (2014) – Sukhumvit 49 (779件レビュー) | |
Tier 2 | シンガポール | KYŌ Kohee (2022) – 112 Robinson (301件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 2 | インドネシア | Miro Matcha House & Eatery (2023) (287件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 2 | ベトナム | Morico (2009) – Lê Lợi (2,614件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 3 | タイ | mini oriental speedbar (2023) – BACC Siam (1,065件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 3 | シンガポール | Maccha House (2012) – Orchard Central (826件レビュー) | |
Tier 3 | インドネシア | Titik Koma Tanjung Duren (2023) – Tanjung Duren (767件レビュー) | 旗艦店 |
Tier 3 | ベトナム | Mamoru Cafe (2023) (228件レビュー) | 旗艦店 |
※ベトナムのTier 1店舗については例外を設け、2024年4月開業のMatte Matcha & Teabarを選定しました(適切な2年以上営業の専門店が存在しなかったため)。
データ収集方法と留意点
- レビューは抹茶商品(飲料またはデザート)への言及を含むものを抽出
- 抹茶以外に触れている場合は、抹茶に関する部分のみを分析対象とした
- 収集時期は2025年6月中旬、最新レビューから抽出
- 短文から長文まで、レビューの長さや内容は不問
データの偏りについて:
都市部・人気店舗中心であり、抹茶認知度の高い層が多く含まれる可能性がある。また、英語レビューが中心で、外国語レビューはGoogle翻訳やChatGPTを併用して翻訳したため、一部ニュアンスが失われた可能性がある。
まとめ
本調査の意義と限界
本調査は、Google Mapsレビューという容易に入手可能なデータを活用し、消費者の反応傾向を簡易的に把握できることを示しました。ただし、結果を一般化することはできず、あくまでも初期的な仮説形成にとどまります。
市場戦略への示唆
レビューから得られた傾向を出発点として、アンケート・試飲調査・インタビューを組み合わせて検証することで、より精緻な市場理解が可能となります。これにより、各国の消費者特性に合わせた商品開発やプロモーション戦略の立案に活かすことができます。