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コーヒー文化から生まれた?東南アジアで進化する“抹茶”の今

記事の内容

東南アジアの抹茶人気は、茶道や緑茶文化ではなく、実は世界的なコーヒーカルチャーの影響を色濃く受けています。

コーヒーより健康的なカフェインとして注目されたことをきっかけに、抹茶はこの地域で急速に拡大。その過程で、ラテやショット、映えるデザートドリンクといった新しいスタイルを取り込みながら、“カフェの一杯”として進化してきました。

本記事では、コーヒーとの意外なつながりをヒントに、東南アジアで広がる抹茶のトレンドと、国ごとの“好まれ方”の違いを紹介します。タイ・ベトナム・インドネシア・シンガポールの人々は、いまどんな抹茶を楽しんでいるのでしょう?現地のカフェやSNSの様子から、その答えを探っていきましょう。

抹茶はコーヒーよりヘルシー? 東南アジアで進化する“健康系カフェ飲料”としての訴求

抹茶はなぜ東南アジアで“健康飲料”として広がったのか?


COVID-19パンデミックをきっかけに、東南アジアでは健康やウェルネスに対する関心が高まりました。抹茶が注目されたのもこの時期で、低カフェイン・抗酸化成分・L-テアニンといった効能が、コーヒーより“穏やか(link)で健康的な選択肢”として評価されるようになったのです。特に、コーヒーで神経が過敏になる人にとって、抹茶は“気分を落ち着かせながら集中できる”理想的な代替ドリンクとなっています。

以下のInstagram投稿は、タイの抹茶カフェ「GOOD CHĀ」と、インドネシアの「Matcha Bae」が、抹茶を健康・ウェルネス視点でどのように訴求しているかを示す好例となっています。GOOD CHĀは「タイ初のプラントベース抹茶バー」として展開し、オープン初期から「抹茶はコーヒーよりも身体にやさしい」と比較するInstagram投稿を発信していました。

一方、Matcha Baeは “calm” “happy” “fresh” といったキーワードを用いながら、抹茶をポジティブな気分やライフスタイルと結びつけるマーケティングを展開しています。

GOOD CHĀは、Instagramで抹茶の健康効果をコーヒーと比較する投稿を発信している。


ブランドとしては「インドネシアにプレミアムで本格的な抹茶体験を届ける」ことを掲げ、Instagramでは若年層をターゲットに、抹茶のウェルネス効果を前面に出した投稿も行っています。こうした投稿は、製品をさりげなく紹介しながらも、抹茶の価値や健康効果についての理解を促す“消費者教育”的な役割も果たしているのです。

抹茶の健康効果を紹介するMatcha Baeの投稿


この投稿には現時点で7,121件の「いいね」がついています。2025年7月初旬時点でのMatcha Baeのフォロワー数(26,400人)と比較しても、かなり好意的な反応と言えるでしょう。 投稿では、「抹茶はカフェイン目的というより、“幸福感”や“穏やかさ”といったウェルネス効果を求めて飲まれている」とするメッセージが明確に伝えられており、フォロワーの共感を集めました。

「甘くない抹茶」が受け入れられる理由とは? 東南アジアで進む“無糖志向”


2025年初頭から、タイでは“ピュア抹茶”と呼ばれるトレンドも広がり始めました。これは甘味料を一切加えず、水と抹茶だけで淹れるような、100%抹茶粉末を使った飲み方を指します。市販のドリンクではいまだに甘さが加えられるのが一般的ですが、こうした動きは抹茶の健康志向イメージの定着と、消費者の味覚の変化を反映しているといえます。同様の傾向はシンガポールにも見られ、たとえばKYŌ Koheeでは、基本的に甘さを加えた抹茶ドリンク(メニュー)を提供していますが、砂糖の量を減らす・ゼロにするといったオーダーが可能です。またCheeky Cuppasのように、もともと砂糖不使用がデフォルトになっているカフェ(メニュー)もあります。

こうした背景には、健康志向だけでなく、シンガポール政府が導入したNutri-grade制度(甘味料量の表示義務づけ)[*1]も影響していると考えられます。ただし「無糖派」と「甘党派」ははっきりと分かれてきており、ビターで素朴な味を好む層がいる一方で、スイーツ的な抹茶ドリンクを楽しむ層も根強く存在します。
実際、2025年のトレンドドリンクのひとつとして「抹茶バナナプディング」が話題となっています。これは、抹茶ラテにバナナプディングのスクープとクッキークラムをトッピングしたもので、まるでデザートのような一杯。甘さを楽しみたい層のニーズに応えています。 こうした“甘さ・苦さ”の嗜好の違いについては、別記事「重要なのは苦味?甘み? 東南アジア抹茶ドリンクの人気と味覚傾向【消費者レビュー調査】」でも取り上げています。

コーヒー文化との親和性が生んだ、抹茶ブランディングの進化

ラテもショットも、“コーヒー風”で広がる抹茶ドリンクのバリエーション

抹茶は本来、お湯と茶筅で点てるものですが、東南アジアのカフェ文化においては、伝統的な作法よりも“コーヒーに似た飲み方”が好まれる傾向があります。こうした背景から、抹茶ラテや“クリア抹茶”など、コーヒーメニューをベースにアレンジされたドリンクが主流になっているのです。

たとえば、タイ・ベトナム・インドネシア・シンガポールの4カ国では、抹茶は抹茶ラテとして飲まれることが最も一般的。コーヒー中心のカフェでも定番メニューとして扱われています。 また、全4カ国で見られるもうひとつのメニューが“クリア抹茶”または“ストレート抹茶”。これは抹茶を氷水に注いだシンプルなドリンクで、アイスティーというより“アイスロングブラックの抹茶版”といった印象。ラテほどの広がりはないものの、抹茶専門カフェでは定番になりつつあります。

このように、抹茶が“コーヒー的”に楽しまれている現状は、新たに東南アジア市場に参入するブランドのメニュー設計にも影響しています。 たとえば、ベトナムに展開した日本ブランド「Atelier Matcha」は、現地向けに“抹茶ラテ テイスティングセット”を導入。これは通常の抹茶テイスティングセットに加えて、複数の抹茶ラテを小さなショットで飲み比べできるセットで、エスプレッソのテイスティング体験を想起させます。ちなみに、東京本店ではラテテイスティングセットは提供しておらず、現地消費者の嗜好に合わせたアレンジであることがわかります。

Atelier Matchaベトナムによる抹茶テイスティングメニューの紹介投稿
Instagramの機械翻訳より(抄訳):「抹茶は一杯ずつエスプレッソスタイルで丁寧に抽出。抹茶本来の風味と豊かな層をそのままに楽しめます。クリーミーな味わいが好きな方には、ミルクと合わせた抹茶の香りとまろやかさを楽しめる『抹茶ラテ テイスティングセット』がおすすめです。」

世界で流行する抹茶ドリンクと、東南アジア発の“ローカルアレンジ”


SNSの力により、ある地域で人気を集めたドリンクが他の国にも急速に広まることが珍しくなくなりました。特にSNSで注目を集めるドリンクには、作り方や見た目の“映え”が求められます。また、ユーザーは常に“新しさ”を求めており、これまでになかった味の組み合わせや、既存メニューのユニークなアレンジが歓迎されます。こうしたトレンドはカフェのメニュー開発にも影響を与え、消費者自身も話題のドリンクを探し求めることで、トレンドを加速させています。

たとえば「ストロベリー抹茶ラテ」は、2010年代後半から2020年代初頭にかけて北米で登場し、その後インドネシアやシンガポールにも広がりました。抹茶ラテにイチゴジャムを合わせたドリンクで、一般的にはグラスの底にジャム、次にミルク、最後に抹茶を注ぎ、三層のカラーが美しく映える構成です。このドリンクは見た目の楽しさに加えて、抹茶の苦味とジャムの甘さのバランスがよく、味わいも爽やか。これに触発されて、現地カフェではマンゴージャムを使った「マンゴー抹茶ラテ」など、さまざまなアレンジが登場しています。

また、東南アジア域内でも抹茶レシピの交換が進んでいます。そのひとつが「抹茶ココナッツラテ」。起源ははっきりしないものの、タイで人気を集めた後、ベトナムにも広がり、インドネシアやシンガポールでも見られるようになりました(ただし普及度は高くありません)。 このドリンクは、抹茶ラテにココナッツジュースを合わせたもので、さらに派生形として「抹茶ココナッツクラウド」も登場。これはココナッツジュースの上に抹茶フォームをのせた構成で、どちらも南国の暑さの中で爽やかに楽しめるドリンクとして支持されています。

このような飲料の多様化に加えて、その売り方やブランディングにも注目すべき変化があります。

“セレモニアルグレード”とは? 東南アジアで進化する抹茶の販売戦略


抹茶の販売方法やブランディングにも、スペシャルティコーヒー文化の影響が見られます。 たとえば、抹茶のグレード(セレモニアルグレードなど)や産地、味の特徴を明示し、まるでシングルオリジンのコーヒー豆のように扱う動きが進んでいます。これにより、抹茶は単なる素材ではなく、“選んで楽しむ嗜好品”として提案されているのです。こうした抹茶の格付けやブランディングは欧米でも見られる世界的な流れであり、その影響が東南アジアにも波及しています。

KSANA (Thailand) メニュー

Kurasu Thailand Coffee Lineup


実際の例として、タイの抹茶ブランド「KSANA」の抹茶メニューは、同じくタイにあるコーヒーショップ「Kurasu」のコーヒーラインナップと並べて比較されることもあります。どちらも「原産地」「香り」「味わい」の説明が丁寧に記載されており、選ぶ楽しさを提供しています。分類方法の類似性は、消費者の“抹茶観”そのものにも影響を与えており、選び方や購入行動にも変化をもたらしています。

また、「セレモニアルグレード」という呼び方も海外市場で定着しつつあります。もともとは茶道などで使われる高品質な抹茶を指すこの表現は、欧米市場でマーケティング用語として登場し、東南アジアを含む各地でもプレミアム抹茶の分類に用いられるようになりました。 こうした“グレード”の発想やカテゴライズは、コーヒーの影響を受けたものであり、特にカフェ文化が発展している東南アジアでは、抹茶をどう見せ、どう選ばせるかにおいて有効に機能しています。
抹茶とコーヒーが同じようにランク分けされ、起源や味わいの違いで選ばれるようになった今、抹茶を扱うブランドにとっては、こうしたコーヒー的発想を取り入れた提案が、ローカル市場への浸透を促す重要なヒントとなりそうです。

“静寂と苦味”という伝統的なイメージが強い抹茶ですが、現在の東南アジアでは、健康志向・多様な味覚・SNS映えといった現代的価値観のもとで、その楽しみ方が大きく拡張しています。 抹茶は、国や文化、嗜好に応じて自在に変化しうる存在であり、コーヒーと同様、あるいはそれ以上に柔軟性を持った飲料として再発見されています。このような動きは、単なる流行にとどまらず、抹茶が世界の消費文化にどのように根付いていくかを考えるうえでも、重要な示唆を与えてくれます。

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文中の補足情報・データ(クリックで開く)

[*1]

Nutri-grade labels (栄養グレードラベル) は、国民の糖尿病、高血圧、高コレステロール対策に向けた政府の取り組みの一環として、2020年12月にパッケージ飲料に初めて導入され、その後、フレッシュ飲料にも拡大されました。これは、製品の糖分と飽和脂肪酸の含有量を評価するラベルで、糖分と飽和脂肪酸の含有量が少ないほど高い等級が付与されます。最高等級はA、最低等級はDです。

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東南アジアの抹茶専門店の概要 

以下の表は、4か国それぞれにおける注目すべき抹茶関連企業をまとめたものです。すべての企業を網羅したリストではありません。記載されている情報は参考情報としてご利用ください。

YearThailandVietnamSingaporeIndonesia
2009Morico
2010~20142012 FUKU Matcha
2014Peace Oriental Teahouse



2014 Yamamoto Mattcha Cafe (now closed)
2012 Nana’s Green TeaMaccha House Tsujiri
2015~20192015HomuSeven Suns
2016Tsujiri (now closed)
2015Japanese Matcha & Coffee House


2018 Senchasou (now closed)
2015Matchaya


2017HvalaKurasu
2019108 Matcha Saro






2018Uji MatchaTsujiri (now closed)GOOMA
2020~20252020Matcha & More



2022Yama MatchaCLEAR. MatchaMTCHKSANA
2023Matcha maruGOOD CHĀ (グッド茶)mini ミニ oriental speedbara.matcha.house







2025Shinji Matcha & Dojo




















2024Matte Matcha & Tea BarArtisan Matcha SlowbarKocha Matcha Spot
2025Atelier Matcha(á) the matcha space



2021Hello Arigato
2022KYŌ Kohee











2024Creamie SippiesHAUS Coffee



2025TOP QUALI TEA KYOTO
2020Yamaoka Tea
2021Feel Matcha
2022GinchaMatcha Bae


2023MTCHNendo MatchaMiro Matcha House & EateryMatchaya

2024Uki MatchaMatchamanHakuji Tearoom

ローカル抹茶ブランドについて

Yamamasa Koyamaen, Ippodo and Marukyu Koyamaen は、国際的に人気のある日本の抹茶ブランドです。しかし、東南アジアには、日本産の抹茶を現地で販売する現地ブランドも存在します。例として、Matchazuki(タイ)、Matchi Matcha(ベトナム)、Matchamu(インドネシア)、Matsu Matcha(シンガポール)、Naoki Matcha(シンガポール)などのブランドがあります。シンガポールでは、マレーシアのブランドNiko Nekoも人気です。

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