本記事では、シンガポールで特に人気の高い保湿マスクとブライトニングマスクに注目し、その背景にある要因を詳しく掘り下げます。また、SNSトレンドやセールがシートマスクの購入をどのように後押ししているのかも調査。さらに、日本や韓国のシートマスクがシンガポールの消費者に受け入れられている文化的な理由についても考察します。
世界で広がるシートマスク市場:なぜ今注目されているのか?
ドラッグストアやバラエティショップの美容コーナーで見かけるシートマスク。ネット上でも、SNSのクリエイターやインフルエンサーがメイク前に使ったり、夜のお手入れに取り入れたりしているのをよく見かけます[*1]。さまざまな種類のフェイシャルマスクが存在しますが、日本では特にシートマスクが人気です[*2]。
年 | 世界市場規模 |
---|---|
2022年 | 2.3億米ドル |
2023年 | 4.3億米ドル |
2022年のシートマスクの世界市場規模は2.3億米ドルで、2032年には4.3億米ドルに達すると予測されています(Global Market Insights(GMI))。これは、2023年から2032年にかけて年平均成長率6.5%で推移する見込みです(GMI)。
一方、シンガポールでは、シートマスクはクレイマスク、オーバーナイトマスク、ピールオフマスクなど、さまざまな種類のフェイスマスクと売上を競い合っています[*3] [*14]。また、オンラインストアでも簡単に入手でき、SNS上でも多くのレビューが投稿されており、安定した需要があることがわかります[*4]。
本記事では、シンガポールのシートマスク市場にフォーカスし、人気のマスクの特徴や、その理由を探ります。気候や環境、美の基準、SNSの影響など、消費者の購買行動に影響を与える要因を詳しく見ていきましょう。
気候と美容意識が支えるシンガポールのシートマスク需要

まず、シンガポールではさまざまなシートマスクが販売されていますが、特に保湿やブライトニング効果のあるものがおすすめされています。それはなぜでしょうか?
保湿マスクの需要は、気候や環境の影響を受けており、ブライトニングマスクの需要は、美の基準や透明感のある肌への憧れ関連しています。以下より、それぞれ詳しく見ていきましょう。
冷房で乾燥する肌を守る:保湿マスクが求められる理由
シンガポールは湿度が高いのにも関わらず、保湿マスクの人気が高いのはなぜでしょうか?
シンガポールの気候は一年中暑く、雨が多い、いわば「常夏」といえる環境で、湿度は日本よりもさらに高いです。そのため、室内環境では強力な空調が使用されており、ショッピングモールやオフィスは、まるで冷蔵庫の中のように冷えることもあります。一方、屋外は蒸し暑く、その温度差が激しいのが特徴です。
室内で過ごす時間が長い人にとって、乾燥した冷房環境では肌の保湿が欠かせません。また、屋外と屋内の極端な温度差は肌に大きな負担をかけ、ニキビや湿疹(アトピー性皮膚炎など)の悪化を引き起こす要因となります[*5]。そのため、肌にうるおいを与えて落ち着かせる保湿シートマスクは、シンガポール市場で特に人気があります。
ブランド | 商品名 | 特徴 | 価格帯 |
---|---|---|---|
ルルルン | プレシャス(7枚入り) | 保湿、低刺激、化粧水マスク | $7.90 ~ $12.90 |
ハイドラ(7枚入り) | 保湿、肌荒れ防止 | $11.00 ~ $23.60 | |
Torriden | ダイブイン マスクパック (10枚入り) | 保湿、ヒアルロン酸配合、肌を落ち着かせる | $20.90 ~ $40.00 |
Abib | ガムシートマスク(10 sheets) | 保湿、肌を落ち着かせる、敏感肌向け | $20.20 ~ $32.00 |
弱酸性pHシートマスク(10枚入り) | 保湿、肌の免疫力を高める | $22.70 ~ $59.00 |
長く愛用されているのは、日本のブランド「ルルルン」のマスクで、その品質と効果の高さからシンガポールにもファンがいます[*6]。また、最近では韓国の「Torriden」や「Abib」といったブランドも注目されており、シートマスクだけでなく、セラムやトナーパッドも人気を集めています[*7]。
強い日差しと肌悩み:シンガポール女性の美の基準“ブライトスキン”
グラススキン[*8]が流行する以前から、シンガポールではシミやくすみのない、透明感のある美しい肌が美の理想とされてきました。環境要因が肌の健康や美しさを維持するうえで大きな課題となっています。
シンガポールは一年中強い紫外線を浴びるため、日焼け止めなどの対策を怠ると、肌は紫外線ダメージを受け、シミやそばかすができやすくなります[*9]。さらに、前述のとおり、屋外と室内の極端な温度差が肌に負担をかけることで、ニキビが発生しやすくなったり、もともと肌に抱えているトラブルが悪化したりすることがあります。これらの要因が、肌トラブルの増加につながっています。
そのため、シミやくすみを目立たなくするブライトニングマスクが人気です。たとえば、高級シートマスクの代表格として知られる「SK-II」の「フェイシャルトリートメントマスク」は、その定番アイテムのひとつです。
ブランド | 商品名 | 特徴 | 価格帯 |
---|---|---|---|
SK-II | フェイシャルトリートメントマスク(6枚入り) | 透明感、なめらかで輝く肌へ | $149.00 ~ $196.42 |
サボリーノ | 目ざまシート(32枚入り) | 保湿、美白、時短(1分) | $16.90 ~ $22.50 |
Medicube | ディープビタCクイックマスク(30枚入り) | 美白、ビタミンC配合、時短(1分) | $23.80 ~ $45 |
また、近年ではスキンケアや美容製品におけるビタミンCの認知度も高まっています[*10]。ビタミンCは、肌のトーンを明るくし、赤みやくすみ、色ムラ、肌の凹凸、毛穴の目立ちを改善するとされています。
しかし、日本では2024年に「ナンバーズイン」の「5番 白玉グルタチオンCふりかけマスク」が特に人気でしたが[*11]、シンガポールではまだそれほどの話題性は見られません。現在のところ、シンガポールではシートマスクよりもビタミンC美容液のほうが人気があるようです。
SNSが仕掛ける人気商品:売れるマスクの裏にあるトレンド

シンガポールにおけるシートマスクの売上は、SNSのトレンドやプロモーションによって支えられています。GMIのレポートによると、シートマスク市場の成長要因のひとつに「SNSの普及とインフルエンサーマーケティングの増加」が挙げられています。これは、シンガポールでも当てはまる状況です。
シンガポールには「@cosme」のようなレビューサイトは存在しませんが、消費者の口コミが購買行動に影響を与えていることは間違いありません。かつてはブログや雑誌のレビューを参考にすることが一般的でしたが、現在ではSNSを通じて商品をおすすめし合う傾向が強まっています。
この流れが2024年に「Biodance」のバイオコラーゲン リアルディープマスクの人気を後押ししました。このマスクは本来オーバーナイトマスクですが、シンガポール市場で成功を収めたことは、SNSマーケティングの影響力を示しています。
BiodanceはTikTokを活用し、マスクのプロモーションキャンペーンを展開しました。やがて、このマスクはシンガポールにも広がり、現地のコンテンツクリエイターが実際に試してレビューを投稿するようになります。その結果、このマスクはシンガポールのECサイト「Shopee.sg」で5万個を売り上げ[*12]、「Amazon.sg」では2024年のベストセラー・フェイスマスクのひとつに選ばれるほどの人気を博しました[*13]。
このマスクが話題になった要因のひとつは、着用時に白色から透明に変化するという特徴であり、視覚的な変化が求められるTikTokのフォーマットに適していたことが挙げられます。
さらに、シンガポールの消費者が新商品を試したり購入したりする際の大きな動機のひとつがセールです。シンガポールの住民も観光客も、物価の高さを日常的に実感しています。
そのため、地元の人々はコストを抑える手段として、海外旅行時にまとめ買いをしたり、マレーシアのジョホールバルまで車で行って安く商品を購入したりすることが一般的です。また、セールや割引のタイミングを狙って買い物をする人も多く、お得に購入できたという満足感が、シートマスクの購買意欲をさらに高めています。
シンガポールのシートマスク人気の裏にある文化とトレンド

Jビューティー&Kビューティーが牽引する購買行動の変化
シンガポールでは、さまざまな国際ブランドのシートマスクが販売されていますが、特に影響力があるのは日本と韓国の製品です[*14][*15]。これは、Jビューティー(日本の美容)とKビューティー(韓国の美容)がシンガポールで確固たる地位を築いているためです。
日本と韓国のシートマスクは、その品質の高さと革新的な成分で信頼されています。特に、配合成分は常に進化を続けており、新しい成分や技術が取り入れられています。このような変化は、単に新しいもの好きな消費者だけでなく、最新のスキンケアや美容トレンドを試したい人々にとっても魅力的なものです。
また、一部の消費者にとって、トレンドを追うことは社会的な競争の一環となっています。友人や知人の間で流行している製品を使うことで、自分もその流れに乗っていると感じることができます。一方で、周囲と同じものを持っていないと取り残されると感じ、「FOMO(Fear of Missing Out. と呼ばれる心理現象。取り残されることへの不安。)」 から話題の製品を購入する人も少なくありません。
つまり、日本や韓国のシートマスクの需要は、両国の美容製品が持つ優れた評判によって支えられており、それに加えて、シンガポールの消費者の行動パターンが市場の成長を後押ししているのです。
シートマスクは“時短美容”として、スキンケアルーティンに定着
さらに、シートマスクがシンガポールの消費者に受け入れられている理由のひとつに、スキンケアやメイクのルーティンに取り入れやすい という点があります。
GMIのレポートによると、近年の消費者は美容やスキンケアへの意識が高まっており、シートマスクは手軽で使いやすく、短時間で肌の状態を整えられる点が魅力とされています。
他のマスクタイプと違い、1枚単位や数枚入りのパッケージで購入できるため、手間がかかりません。チューブや容器に入ったマスクを買って合わなかった場合に比べると、廃棄による無駄が少ないこともメリットです。
また、保湿系のマスクは肌質を問わず使いやすいため、ギフトとしても人気 があります。
現在、シートマスクはシンガポールの多くの消費者にとってスキンケアの補助的なアイテム として認識されています[*16]。たとえば、特に疲れた日の肌のケアとして使われることが多いですが、最近ではメイク前の準備アイテムとしての認識も広がりつつあります。これは、日常使いできるマスクや多機能マスクの登場、日本や韓国のスキンケア・美容ルーティンに関する知識の普及が影響していると言えるでしょう。
また、シートマスクに対する消費者の意識も変化しています。以前は、「特別なケア」や「肌トラブルが起きたときに使う贅沢品」として捉えられていました[*17]。しかし、最近では定期的に使用するアイテムとしての認識が高まり、メイク前に取り入れる人も増えています。
一方で、スキンケアの手間を省ける便利アイテムとしての魅了を感じる人もいます。忙しい日や面倒なときには、化粧水・美容液・クリームの役割を兼ねる多機能マスクを使うことで、スキンケアの工程を短縮できるからです。また、他のマスクに比べて塗る手間がなく、装着後に別の作業をしながら使えるという利便性も支持されています。
こうしたシートマスクの利便性が広く認識されるにつれ、購入する人が増え、その人気はますます高まっています。
シンガポールでシートマスク市場が成長する理由

結論として、シートマスクがシンガポールの消費者に人気な理由は、さまざまな要因が組み合わさっているためです。
まず、手軽に使えることに加え、一部の消費者にとってはスキンケアやメイクルーティンに欠かせないアイテムへと変わりつつあります。単なる補助的なケアではなく、日常的に取り入れられる存在になりつつあるのです。
また、シートマスク市場を牽引しているのは、日本や韓国のブランドへの高い信頼です。これらの国のシートマスクは、革新的な成分や技術を取り入れていることで知られており、トレンドを意識する消費者や、日本・韓国のスキンケアを取り入れている層にとって、安定した需要を生み出す要因となっています。
さらに、シートマスクはシンガポールの消費者の具体的なニーズ に応えている点も見逃せません。保湿系マスクは、乾燥した屋内環境での肌ダメージをケアする目的で支持されており、ブライトニング系マスクは、透明感のある美肌を求めるニーズに応えています。
これらの機能性に加え、使いやすさ、豊富なブランド展開、幅広い価格帯も、多様な消費者にとって魅力となっています。
こうした製品が選ばれる背景には、単なる使用感や効果だけでなく、個々のライフスタイルや価値観、さらには地域特有の気候や美容観、トレンドといった文化的な要因が深く関係しています。
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