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シンガポールと日本、月経カップに対する消費者意識の違いを探る

女性がベッドに座って朝日を浴びている様子

記事の内容

本記事では、シンガポールと日本における月経カップ市場を取り上げ、各ブランドがそれぞれの国の消費者にどのようにアピールしているかを分析します。また、文化的背景やその他の視点を踏まえ、消費者の嗜好の違いを理解するためのヒントを提供します。


月経カップを選ぶ理由は「環境意識」の高まり?


月経カップは、タンポンやナプキンの代わりに使えるエコフレンドリーな製品で、現在、生理用品市場で注目を集めています。使い捨ての生理用品とは異なり、月経カップは再利用でき、最大10年間使用することが可能です。月経カップを使うことで、個人のゴミが大幅に減るため、「サスティナブル(持続可能な)生理用品」ととして認識されています。

シンガポールと日本の消費者は、月経カップに関心を持ち始めていますが、その理由は単に環境意識の高まりだけなのでしょうか?環境への配慮は確かに重要ですが、両国の消費者が月経カップを選ぶ理由には、もっと大きな要素が影響しているようです。

シンガポールの消費者は、環境だけでなく、社会問題やコストにも関心を持っています。一方で、日本の消費者は、商品の利用体験と快適さを重視しています。この違いは、シンガポールと日本の月経カップブランドの消費者に対するコミュニケーションにも反映されています。

そこで、シンガポールと日本のブランドがそれぞれどのようなマーケティングを行っているか、各ブランドのホームページから紐解いていきましょう。

シンガポールの消費者が月経カップに求める価値


シンガポールの消費者の関心事項は、環境問題とコストです。このことは、シンガポールのブランドである「Blood」と「Freedom Cups」のマーケティングからわかります。どのようなマーケティングを行っているか見ていきましょう。

環境問題と社会問題:ブランドが訴える“共感型”マーケティング


まず、「Blood」は自社の月経カップが使い捨ての生理用品とは異なるエコフレンドリーな製品であることをアピールしています。公式サイトの製品ページでは、月経カップを「ナプキンやタンポンの再利用可能な代替品」として紹介し、「自分にも、体にも、地球にもやさしい」と表現しています。

Blood製品ページによる月経カップの説明
出典:Blood SG

「Freedom Cups」は、「1個購入で1個寄付」という取り組みをしています。これは、1個購入されるごとに、1個が恵まれない地域の女性に寄付されるというものです。この取り組みについては、公式サイトの「About Us(会社概要)」で確認できます。

Freedom Cups公式サイトの会社概要
出典:Freedom Cups

「1個購入で1個寄付」という取り組みは、「月経の貧困」について消費者教育を行っています。「月経の貧困」とは、生理用品や設備が十分に利用できず、それらの使い方に関する教育も不足している状態のことです。

また、月経の貧困に直面している地域では、環境の持続可能性を同時に考えることも難しいでしょう。これらの地域に月経カップを提供することで、月経の貧困問題を解決しつつ、持続可能な月経を促進しているのです。

したがって、「Freedom Cups」の取り組みは、社会貢献をしたいと考える消費者に響きます。顧客は、「このブランドから購入することで他の人を助けることができる」という前向きな気持ちを抱くことができるでしょう。このような感情が「Freedom Cups」の購入を促し、リピート購入にもつながります。

月経カップのコスパに注目集まる生活事情


「Blood」「Freedom Cups」の両ブランドは、公式サイトの製品ページで月経カップのコストパフォーマンスについて紹介しています。それぞれどのように紹介しているか見ていきましょう。
「Blood」では、「体に、財布に、地球にやさしい」というキャッチフレーズのもと、ナプキンと月経カップを比較した図を提示しています。

Blood公式サイトによる月経カップのコストパフォーマンスの紹介
出典:Blood SG

図には、1560枚のナプキンが積み重ねられた柱と、それに対して1つの月経カップが並べて描かれています。この図から、消費者が1つの月経カップを購入することで、環境への負荷を大幅に削減できることを視覚的に示しているのです。

また、ナプキンと月経カップのコストの違いも明記されており、消費者は使い捨ての生理用品と再利用可能な製品の違いを簡単に理解できるでしょう。
このように、環境にやさしく、コストパフォーマンスも良い月経カップを選ぶよう促す内容となっています。

一方、「Freedom Cups」は、よりシンプルなデザインを使っており、メリットとして「安価」を「再利用可能」や「エコフレンドリー」の間に掲載。「安価」という言葉が目立つ位置に配置されているため、消費者にとってこれが重要な要素であることが強調されています。

Freedom Cups公式サイトの月経カップによるメリット紹介
出典:Freedom Cups

コストの強調は、これらのデザインだけにとどまりません。パッケージにもその点がほのめかされています。

BloodとFreedom Cupsの月経カップ商品パッケージ
出典:(画像左)Blood SG、(画像中央と右)Freedom Cups

「Blood」のカップは「4枚分のナプキン相当」で、「Freedom Cups」の2種類のカップ(Miniは25ml、Grandeは35ml)は、かなりの容量があります。これらのカップは、頻繁に交換する必要がないことを意味しています。

パッケージでカップの容量を強調することで、顧客は月経カップがその価格に見合う価値があると感じやすくなるでしょう。なぜなら、1回の使用でナプキンやタンポンと同じくらい、またはそれ以上の時間使えるからです。

快適さが最優先?日本女性の月経カップ選びの視点


日本のブランドであるIntegroとMurmoは、環境問題にはあまり重点を置かず、主に顧客の快適さに焦点を当てています。

これは、両ブランドが生理をより快適にすることを目指しているからです。

以下より、日本の消費者が月経カップに不慣れであることを解説します。そのうえで、ブランドがどのように商品を宣伝しているかを見ていきましょう。

月経カップの使用に対する“心理的ハードル”


月経カップブランド「Murmo」が発表した調査によると、回答モニターの20歳から40歳の女性のうち、ほぼ半分である48.9%は月経カップのことを知っています。そのうち、月経カップを使用しているのは8.9%のみで、78.8%は1度も使用したことがないことがわかっています。使用したことがない回答者に聞くと、ほとんどの人(27.9%)は「着脱が難しそう」と回答しました。

月経カップの認知調査の円グラフ
出典:Murmo
月経カップのイメージ調査
出典:Murmo

この調査から分かるのは、半分ぐらいの日本の女性が月経カップのことを知っているにも関わらず、使用したことがないということです。女性たちは、月経カップを使わない理由について、月経カップに対する否定的な考えを示しました。

それに加えて、「月経カップを知らない」と回答した残りの半分以上は、まだ月経カップのことを学習する機会がありません。

「導入しやすさ」が日本ブランドの工夫ポイント


月経カップへの認識不足や顧客の不安に対応し、安心して使用できるようにするため、「Integro」と「Murmo」といったブランドが取り組みを行っています。以下では、それらのブランドが公式ウェブサイトでどのように月経カップの使いやすさを伝えているのかを分析します。

Integroの公式サイトでは、ブランドの目的が女性の生理体験を改善し、不自由さから解放することだと明確に述べられています。環境への配慮についても触れられていますが、主な強調点は女性のウェルビーイング(幸福)を向上させることです。

Integro公式サイトによる生理体験改善についてのメッセージ
出典:Integro Ltd.

同様に、Murmoの公式サイトの「About」ページでは、初心者の月経カップユーザーが製品を使う際の不安や疑問を解消することをサポートするというブランドの目的が説明されています。

Murmoの公式サイトのAboutページ
出典:Murmo

「はじめてでも安心」をサポートする日本ブランドの工夫


消費者に月経カップが快適であることを伝えるためには、製品の詳細な説明が欠かせません。

Integroの公式サイトには、販売されている3種類の月経カップから自分に合ったものを選ぶための詳しいガイドがあります。

一方、Murmoの公式サイトには、使いやすさを重視した製品の特徴が紹介されており、困っている顧客にはLINEサポートグループも提供しています。これらの詳細な説明は、日本の消費者が購入前に十分な情報を得ることを期待するニーズに応え、安心して自分に合った製品を選べるようサポートしています。

また、両ブランドのウェブサイトには、顧客の快適さを強調する製品画像や説明も掲載されています。女性のの手に収まる製品の画像は、ユーザーと月経カップのつながりを感じさせ、消費者に月経カップの利用をイメージしやすくしています。

IntegroとMurmoの月経カップ
出典:(画像左から3つ)Integro、(画像右端)Murmo

月経カップの購入体験においてのさまざまな工夫が商品理解と不安の解消につながり、スムーズに商品の使用を開始できるようサポートされています。

月経カップ市場の国別違い:文化と価値観が影響する消費行動


では、シンガポールと日本のブランドが消費者に対して異なるマーケティング方法を採用している理由は何でしょうか?また、消費者の嗜好が異なるのはなぜでしょうか?以下より、国別の理由を考えます。

シンガポールが環境問題とコストをアピールする理由


シンガポールの消費者が環境問題とコストに関心を持つ理由は、近年行われたイベントや、実利主義であることが関係しているでしょう。

シンガポールでは、環境問題や女性の健康、メンタルヘルスなどに対する意識が高まっています。女性の健康問題が注目を集めた一例として挙げられるのが、2024年10月にシンガポールで初開催された「メノポーズ(更年期障害)フェスティバル」です。そのフェスティバルはSuretyというフェムテックスタートアップが企画しました。メインイベントは、専門家が主導した「キャリアを持つ女性が中年期に直面する、プライベートな健康問題」についてのパネルディスカッションでした。 (link)

このフェスティバルは、ジェンダーに関する課題への西洋の開かれた姿勢や認識が、シンガポールに影響を与えていることを示唆しています。シンガポールは、伝統的な中国、マレー、インドの価値観を持つアジアの国でありながら、現代的な考え方とも共存する複雑な社会構造を持っています。

このような社会において、「Blood」や「Freedom Cups」といったブランドが、月経カップのプロモーションに環境問題やコストの要素を取り入れていることは、非常に理にかなっていると言えるでしょう。

また、シンガポールでは、実利主義と高い生活費が消費者の購買行動に影響を与えています。

月経カップは初期費用が高いものの、再利用可能で長期的に生理用品のコストを節約できる点を強調することで、消費者は価値のある買い物であると納得します。コストに焦点を当てることで、シンガポールのブランドは消費者のニーズに応えているのです。

日本が導入しやすさと快適さをアピールする理由


日本の消費者が導入のしやすさと快適さに関心を寄せる理由は、月経カップに対しての十分な理解が進んでいないことや、「月経は我慢するものである」といった根深い文化的認識が影響していると考えられます。

日本のブランドは、月経カップをマーケティングする際に環境問題を強調することは少なく、その代わりに女性の健康を最優先にアピールしています。

さらに、月経カップを手に取ってもらったり、慣れてもらったりすることに力を入れており、これは「購入前にしっかりと製品について知りたい」という日本の消費者特有の傾向に応えたアプローチと言えるでしょう。

最も重要なのは、消費者が月経カップを試す際の不安を解消できるようサポートしていることです。これは、月経カップの使い方といった実用的な問題だけでなく、月経に関する話題がタブー視されがちな背景や、「月経は不快であってもそれを我慢するのは仕方のないこと。」といった社会的な雰囲気をも解消するためであるのかもしれません。

顧客の悩みに対処することや快適さに訴えることで、これらのブランドは消費者がより快適な生理体験を選択できるよう後押ししています。

終わりに


この記事では、シンガポールと日本において、消費者に月経カップをどのように紹介しているかを取り上げました。それぞれのマーケティング手法は、両国の消費者の嗜好や月経への意識に対応していることがわかります。

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